診断書は、ペット保険の請求、預け先への提出、転居、手術後の経過の証明など、いろいろな場面で頼まれます。書式が院内で揃っていないと、そのたびにカルテを見返して一から作ることになりがちです。この記事では、獣医師法で押さえておきたい交付のルール、診断書の記載項目、用途別の注意点、コピーして使える無料テンプレートをまとめました。

診断書の交付で押さえる獣医師法の3つのルール

診断書の交付には、獣医師法に直接の定めがあります(条文はe-Gov法令検索の獣医師法で確認できます)。

  • 自ら診察しないで交付しない(第18条):診察していない動物の診断書は交付できません。例外は、診療中に死亡した場合に交付する死亡診断書です。死亡後に初めて診る場合は、診断書ではなく検案書になります。
  • 求められたら正当な理由なく拒まない(第19条第2項):診療した獣医師は、診断書の交付を求められたとき、正当な理由がなければ拒めません。
  • 違反には罰則がある(第29条):第18条に違反した交付や、第19条第2項に違反した拒否は、20万円以下の罰金の対象です。

つまり、診断書は「書くかどうか」より「診療簿にある事実を、提出先の目的に合わせてどう書くか」が実務の中心になります。

診断書に書く項目

提出先の指定書式がない場合は、次の項目を診療簿と照合しやすい順に並べます。

  1. 提出先と用途:何のための診断書かを最初に書くと、必要な記載の深さが決まる
  2. 飼い主の情報:氏名、住所
  3. 動物の情報:名前、動物種・品種、性別と不妊・去勢の有無、生年月日(不明なら推定年齢)、毛色・特徴、マイクロチップ番号
  4. 診断名:確定していない場合は「疑い」と明記する
  5. 初診日と診療期間
  6. 主な症状・所見と検査結果:数値は単位と検査日を添える
  7. 治療内容:手術、処方、処置
  8. 現在の状態と今後の見込み:通院や管理が続く場合はその内容
  9. 発行日、診療施設名・所在地・電話番号、獣医師氏名:署名または記名押印

コピーして使える診断書テンプレート

下のひな形は、提出先の指定書式がないときに使う院内用の書式です。発行前に、患者の取り違えがないか、日付・薬剤・数値・単位が診療簿と一致しているかを確認してください。

診断書の空欄テンプレート

診 断 書

提出先・用途:

【飼い主】
氏名:
住所:

【動物】
名前:   動物種・品種:
性別(不妊・去勢の有無):
生年月日(不明の場合は推定年齢):
毛色・特徴:   マイクロチップ番号:

【診断】
診断名(疑いの場合はその旨):
初診日:   診療期間:  年 月 日 〜  年 月 日
主な症状・所見:
実施した検査と主な結果:
治療内容(手術・処方・処置):
現在の状態:
今後の見込み・必要な通院や管理:
提出先から求められた事項:

上記のとおり診断します。

発行日:  年  月  日
診療施設名:
所在地・電話番号:
獣医師氏名:        (署名または記名押印)

同意書や紹介状の書式は無料テンプレート集からコピーできます。

用途別に気をつけること

用途確認すること書き方のポイント
ペット保険の請求保険会社の所定書式の有無初診日・診療期間・診断名を診療明細と一致させる
預け先・トリミング先への提出求められている項目(感染症の所見、予防歴など)診察した日時点の所見であることを明記する
転居・住まいの手続き提出先が求める内容必要な範囲だけを書き、関係のない既往は書かない
手術・治療後の経過の証明証明したい期間と内容手術日、術式、現在の状態、今後の通院を分けて書く
海外への移動・輸出入動物検疫所や相手国が定める書式・要件院内の書式ではなく指定の書式と手順に従う

「健康である」と書く場合も、診察した時点での所見であることがわかる書き方にします。将来の健康を保証する表現は避けます。

記入例(架空の症例)

架空の記入例(実在の症例ではありません)

提出先・用途:ペット保険の請求(保険会社の所定書式がないことを確認済み)

診断名:右前肢の裂傷

初診日・診療期間:◯年◯月◯日〜◯年◯月◯日

所見・治療:初診時、右前肢に約◯cmの裂傷を認めた。鎮静下で洗浄・縫合し、抗菌薬を◯日分処方。

現在の状態:◯月◯日に抜糸。縫合部の治癒を確認し、治療を終了した。

発行前に確認する5項目

  • 自分(または院内の獣医師)が実際に診察した動物か
  • 患者名、飼い主名、マイクロチップ番号を取り違えていないか
  • 日付、薬剤名、用量、検査値と単位が診療簿と一致しているか
  • 「疑い」と「確定」を書き分けているか
  • 控えをどこに保管し、診療簿からたどれるようにしたか

控えの保管期間の考え方は「カルテ(診療簿)の保存期間」で整理しています。二次診療へ患者を送るときの書類は「獣医の紹介状の書き方」を参考にしてください。

診断書づくりを速くするのは、日頃の記録

診断書に時間がかかる原因の多くは、診療簿から初診日、経過、処方を探して書き直す作業です。診察ごとにSOAPで経過を残しておくと、必要な情報をそのまま拾えます。

診断書でよくある質問

診察していない動物の診断書を頼まれたら、書いてもよいですか?

獣医師法第18条は、獣医師が自ら診察しないで診断書を交付することを禁じています。ただし、診療中に死亡した場合に交付する死亡診断書は例外です。過去に別の獣医師が診た記録だけで頼まれた場合は、改めて診察するか、診察した獣医師に依頼してもらいます。

診断書の交付を断ることはできますか?

獣医師法第19条第2項は、診療した獣医師は診断書の交付を求められたとき、正当な理由がなければ拒んではならないと定めています。内容の書き方で迷う場合は、断るのではなく、診療簿に記録された事実と、確定していないことを分けて書く方法を検討します。

診断書の料金はいくらにすればよいですか?

診断書の料金は各病院が決めています。書式の種類(自院の書式か、保険会社などの指定書式か)で料金を分けるかを決め、依頼を受けた時点で料金と受け取りまでの日数を案内しておくと行き違いを防げます。

ペット保険の請求に使う診断書は、自院の書式でもよいですか?

保険会社が所定の書式を用意している場合は、その書式に記入するのが基本です。所定の書式がない場合や、自院の書式でよいと確認できた場合に、院内のテンプレートを使います。

まとめ

動物病院の診断書は、自ら診察した動物について、求められれば正当な理由なく拒まずに交付するのが獣医師法のルールです。提出先と用途を最初に確かめ、診療簿にある事実を「疑い」と「確定」を分けて書けば、用途が違っても同じ書式で対応できます。