手術や麻酔の前に同意書を書いてもらっていても、「何を説明したか」が書式に残っていないと、後から経過を確かめにくくなります。この記事では、動物病院の手術・麻酔・入院の同意書に入れたい11項目、コピーして使える無料テンプレート、説明内容をカルテに残す手順を獣医師向けに整理しました。

同意書は「説明した内容」を残す書類

同意書の役割は、飼い主の署名を集めることではなく、何を説明し、飼い主が何に同意したかを後から確認できる形で残すことです。 説明の伝え方そのものは「飼い主への説明のコツ」で扱っています。この記事では、説明した内容を書類とカルテに残す方法に絞ります。

同意書を作るときは、全国共通の決まった書式を探すより、自院で多い処置(避妊・去勢手術、歯科処置、腫瘍の切除、麻酔下での検査など)に合わせて項目を決める方が実務に合います。提出先から書式を指定されている場合はそれを優先します。

手術・麻酔・入院の同意書に入れたい11項目

  1. 現在の状態と診断:疑いの段階なら「疑い」と書く
  2. 処置・手術の内容と目的:何を、何のために行うか
  3. 麻酔・鎮静の方法:全身麻酔、鎮静、局所麻酔の区別
  4. 予定日と入院期間:延びる可能性があればその条件
  5. 主なリスク・合併症:麻酔のリスクと、その処置に特有の合併症
  6. ほかの選択肢と、行わない場合の経過:内科的な管理や経過観察も含める
  7. 費用の目安:追加になりうる費用(検査の追加、入院の延長など)を分けて書く
  8. 予定外の所見があった場合の連絡方法:電話で了承を得るのか、連絡がつかないときはどうするか
  9. 緊急時の蘇生処置の希望:希望する/しない/相談して決める
  10. 事前の指示:絶食、飲水、当日の投薬の可否
  11. 退院の目安と退院後のケア:再診日、抜糸、エリザベスカラーなど

最後に、説明日・説明した獣医師・同意日・飼い主の署名を並べます。「質問する機会があった」「同意を取り消すときの連絡先を聞いた」のチェック欄を付けると、説明の流れが書類から読み取れます。

コピーして使える同意書テンプレート

下のひな形は、手術・麻酔・入院・検査をチェック欄で切り替える1枚の書式です。自院の処置名、費用の扱い、緊急時の方針に合わせて編集してから使ってください。法的な扱いに迷う項目は、顧問の弁護士や所属の獣医師会に確認します。

手術・麻酔・入院 同意書の空欄テンプレート

手術・麻酔・入院 同意書(□手術 □麻酔・鎮静 □入院 □検査)

動物病院名:
患者名:   動物種・品種:   性別:   年齢:   体重:  kg
飼い主氏名:   連絡先(当日つながる番号):

1. 現在の状態と診断(疑いを含む):
2. 予定している処置・手術の内容と目的:
3. 麻酔・鎮静の方法:
4. 予定日・入院予定期間:
5. 主なリスク・合併症(麻酔のリスクを含む):
6. ほかの選択肢と、処置を行わない場合に考えられる経過:
7. 費用の目安(追加になりうる費用を含む):
8. 処置中に予定外の所見があった場合の連絡方法:
   □その場で電話連絡し、了承を得てから追加処置をする
   □連絡がつかない場合の対応:
9. 心肺停止など緊急時の蘇生処置の希望:□希望する □希望しない □相談して決める
10. 絶食・投薬など事前の指示:
11. 退院の目安と、退院後に必要な通院・ケア:

確認(飼い主記入)
□上記の説明を受け、質問する機会がありました
□説明を受けたうえで、上記の処置に同意します
□同意はいつでも取り消せること、その場合の連絡先を聞きました

説明日:  年  月  日  説明した獣医師:
同意日:  年  月  日  飼い主署名:
同席者・補足:

ほかの書式は無料テンプレート集にまとめています。

処置別に足しておきたい説明欄

処置足しておきたい欄カルテに残したいこと
避妊・去勢手術術後の体重管理、縫合部の確認、再診日術前検査の結果、飼い主の質問
歯科処置抜歯の可能性と、その場で判断する範囲抜歯した歯と理由、連絡した時刻
腫瘍の切除病理検査の有無と結果が出るまでの期間切除範囲、検体の送付先
麻酔下の検査検査の結果で処置に移る場合の連絡方法実施した検査と、追加処置の了承
入院面会、連絡の時間帯、退院の目安入院中の連絡記録、退院時の説明

説明した内容をカルテに残す手順

同意書は、説明の結論を残す書類です。説明の途中で出た質問や、飼い主が迷った点はカルテのSOAPに残します。次の3点を残しておくと、担当が替わっても経過を追えます。

  1. S(飼い主から聞いたこと):飼い主の希望、不安、質問
  2. A(評価):その処置を勧めた理由と、ほかの選択肢をどう説明したか
  3. P(計画):同意を得た処置、予定日、当日の連絡先、事前の指示

架空の記入例(実在の症例ではありません)

S:飼い主は麻酔のリスクを心配。高齢のため、抜歯の本数が増える場合は事前に電話がほしいとの希望。

A:歯周病で抜歯が必要な可能性が高い。麻酔のリスクと、内科的な管理のみの場合の経過を説明済み。

P:◯月◯日に全身麻酔下で歯科処置。抜歯の範囲が増える場合は処置中に電話連絡し、了承後に実施。前日夜から絶食。同意書は受領済み。

SOAPの分け方は「SOAPカルテの書き方」、麻酔中・回復期の記録は「麻酔記録の書き方」で詳しく紹介しています。

同意書の運用で起きやすい3つの抜け

  • 当日つながる連絡先がない:処置中に電話が必要になってから、つながらないと分かる
  • 費用の目安が1つの数字だけ:追加になりうる費用を分けていないと、後で説明が食い違う
  • 控えの保管場所が決まっていない:紙の同意書をスキャンするか、紙で保管するかを決め、診療簿と同じ患者記録から探せるようにする

同意書の控えの保管期間や電子保存の考え方は「カルテ(診療簿)の保存期間」、手術後に診断書を求められたときは「診断書の書き方」を参考にしてください。

同意書でよくある質問

動物病院の同意書は、法律で決まった様式がありますか?

全国で共通に使う公的な様式を前提にするより、自院で行う処置の説明内容に合わせて作る方が実務に合います。保険会社や紹介先など提出先が書式を指定している場合はそれを優先し、内容に迷うときは顧問の弁護士や所属の獣医師会に確認してください。

同意書に署名があれば、説明は十分ですか?

署名は同意したことの記録で、説明の中身を示すものではありません。何を説明し、飼い主がどんな質問をして、どう答えたかをカルテにも残しておくと、後から経過を確認しやすくなります。

手術中に予定外の所見が見つかったら、どうしますか?

事前に、その場で電話して了承を得るのか、連絡がつかない場合にどこまで対応するのかを同意書で決めておきます。実際に連絡した時刻、話した相手、了承した内容はカルテに記録します。

入院と麻酔の同意書は分けた方がよいですか?

どちらでも運用できます。1枚にまとめる場合は、手術・麻酔・入院・検査のどれに同意したのかをチェック欄で区別し、入院期間や面会、退院の目安など入院特有の説明欄を残します。

まとめ

動物病院の同意書は、状態・処置の内容・リスク・ほかの選択肢・費用の目安・予定外の所見があったときの連絡方法をそろえ、説明日と説明した獣医師を残すと、後から経過を確かめやすくなります。署名だけで終わらせず、飼い主の質問や迷いはカルテに残しましょう。