「麻酔記録は何を、何分おきに書けばよいのか」「モニターが足りないとき、どう記録しておけばよいのか」。米国獣医麻酔鎮痛専門医協会(ACVAA)は2025年に、小動物の麻酔・鎮静モニタリングのガイドラインを2009年以来16年ぶりに改訂しました。この記事では、ガイドライン本文で確認できる記録の項目と間隔、項目ごとの介入の目安、回復期と痛みの評価を獣医師・動物看護師向けに整理し、コピーして使える麻酔記録シートを紹介します。
結論:麻酔中は、心拍数・血圧・SpO2・EtCO2をおおむね5分ごと、体温などそのほかの値を少なくとも15分ごとに記録します。投与した薬剤、測定値、行った処置もあわせて残し、推奨されるモニターが使えないときはその理由を記録します。回復期も記録を続け、痛みは検証されたスケールの点数で残します。
ACVAA 2025年版ガイドラインの位置づけ
対象は犬・猫などの小動物で、全身麻酔に加えて鎮静も含みます。掲載誌は Veterinary Anaesthesia and Analgesia(2025年、52巻4号、377–385頁)です。推奨は次の3段階に分かれています。
- 最低限(Minimum):麻酔をかけるすべての小動物に適用する。使えない場合は、理由を診療記録に残す
- 代替(Alternative):最低限の方法が使えないときにだけ使う
- 発展(Advanced):併存疾患がある、状態が不安定などの患者で検討する
どの段階でも、最低限の推奨の一つ目は麻酔に専念する担当者(dedicated anesthetist)を置くことです。担当者は鎮静・麻酔中の患者のそばに付き、監視と記録を行います。担当できるのは獣医師、資格をもつ動物看護師、獣医師の直接の指導を受ける獣医学生などとされています。
麻酔記録に残す項目と記録の間隔
ガイドラインは、麻酔の記録を「麻酔中の安全、あとからの振り返りや症例検討に欠かせないもので、診療記録の一部」と位置づけています。担当者は回復期を含めた記録を紙または電子で作り、次の内容を残します。
| 記録するもの | 間隔の目安 |
|---|---|
| 心拍数、動脈血圧、SpO2、EtCO2 | おおむね5分ごと |
| 体温など、そのほかの生理学的な値 | 少なくとも15分ごと |
| 投与した薬剤、行った処置・介入 | 行ったときに、その都度 |
| 血行動態が不安定なとき | より頻回に記録 |
監視そのものは常に続けるものであり、記録の間隔は「その間は見なくてよい」という意味ではありません。数値と一緒に、何をしたか(介入)が時刻つきで残っていると、あとから経過を説明しやすくなります。
項目別の最低限のモニタリングと介入の目安
最低限の推奨のうち、記録に数値が残る主な項目をまとめました。介入の目安は、その値を見たら患者を評価し、原因の確認や対処を始めるきっかけとして示されているものです。
| 項目 | 最低限の推奨 | 介入の目安 |
|---|---|---|
| 麻酔深度 | 眼球の位置、筋の緊張(顎の緊張など)、反射を繰り返し観察 | 刺激に対する心拍数・呼吸数・血圧の上昇にも注意 |
| 循環 | 連続した心電図、オシロメトリック法の血圧を少なくとも5分ごと、脈の触診や聴診 | 平均動脈圧 60〜65 mmHg 未満(ドップラー法では 90 mmHg 以下) |
| 酸素化 | 粘膜の色と呼吸の様子、重度の鎮静・麻酔ではパルスオキシメトリ | 酸素補給中の SpO2 95% 未満は原因を確認 |
| 換気 | 胸郭やリザーバーバッグの動きの観察、波形つきのカプノグラフィ | EtCO2 60 mmHg 超は、麻酔深度の調整や陽圧換気を検討 |
| 体温 | デジタル体温計で直腸温を少なくとも15分ごと(または連続測定) | 37.8 ℃ 未満で、安全な方法による能動的な加温 |
気管チューブのカフは、呼吸回路の内圧 20 cmH2O で漏れが聞こえなくなるまで膨らませる(またはカフ圧計を使う)ことも推奨されています。筋弛緩薬を使う場合は、末梢神経刺激装置による評価が最低限の推奨です。
鎮静のときに求められること
2025年版では、鎮静の深さごとに推奨が示されました。処置が短くても、鎮静の深さに応じた観察と記録を残します。
- 軽度:脈の触診(数・リズム・強さ)、粘膜の色と毛細血管再充満時間、呼吸数と呼吸の様子、心肺の聴診
- 中等度:軽度の項目に加えて、体温とパルスオキシメトリ。状態に応じて血圧や心電図
- 重度:酸素を補給し、中等度の項目に加えて心電図・非観血的血圧・カプノグラフィ(鼻のプロングなど)を検討。気道を保てない場合は挿管
回復期の記録と退院の基準
記録は抜管で終わりではありません。ガイドラインは、麻酔薬の投与を止めてから、患者が自分で生理的な安定を保てるようになるまでを回復期として、観察と記録を続けるよう求めています。体温は回復期も少なくとも30分ごとに測ります。
退院(観察の終了)は、次の状態がそろってからとされています(病気や手術の内容で歩けない場合を除く)。
- 体温が正常
- 意識がはっきりしている
- 歩ける
- 吐き気がない
- 痛みがない
痛みの評価をスコアで記録する
ACVAAのガイドラインは、回復期の痛みを急性術後痛のスケールで評価するよう求めています。WSAVAの疼痛ガイドライン(2022年版)は、痛みを「第4のバイタルサイン」として、体温・脈拍・呼吸と一緒に記録するよう勧めています。主なスケールと、鎮痛薬の追加を検討する点数の目安は次のとおりです。
| 動物 | スケール | 鎮痛を検討する目安 |
|---|---|---|
| 犬 | Glasgow CMPS-SF | 24点中6点以上(歩行を評価できない場合は20点中5点以上) |
| 猫 | Feline Grimace Scale | 10点中4点以上 |
| 猫 | UNESP-Botucatu 短縮版 | 12点中4点以上 |
| 猫 | Glasgow CMPS-Feline | 20点中5点以上 |
記録で避けたいのは「必要に応じて鎮痛薬」のような、読む人によって解釈が変わる指示です。WSAVAのガイドラインは、こうした曖昧な指示が鎮痛不足の原因になるとして、スコアと基準を明記するよう勧めています。また、深く鎮静された動物は痛みの有無と関係なく点数が高く出ることがあり、鎮静の影響を考えて判断します。眠っている動物を起こしてまで評価する必要はありません。
麻酔の経過をSOAPカルテにまとめる
数値の推移は麻酔記録シートに残し、カルテのSOAPには判断と次の行動を書くと、担当が替わっても経過を追えます。
架空の記入例(実在の症例ではありません)
S:前日夜から絶食。普段の内服なし。飼い主は術後の痛みを心配。
O:麻酔時間 75分。導入後20分で平均動脈圧 58 mmHg、麻酔深度を調整し5分後に 68 mmHg。抜管時の直腸温 37.4 ℃、加温を継続。抜管後60分の CMPS-SF 4/24。
A:術中の一過性の低血圧は麻酔深度の調整で改善。現時点の痛みは介入の目安未満。
P:体温が正常に戻るまで30分ごとに測定。2時間後に同じスケールで痛みを再評価し、6/24 以上なら鎮痛薬を追加。退院基準を満たしたら退院。
SOAPの分け方は「SOAPカルテの書き方」、麻酔の説明と同意の残し方は「同意書の作り方」で紹介しています。
そのまま使える麻酔記録シート
ガイドラインの記録の項目と間隔に合わせた、院内用の空欄形式です。自院のモニターや処置に合わせて項目を編集してから使ってください。
麻酔・鎮静の記録シート(空欄)
麻酔・鎮静の記録シート 基本情報 日付: 年 月 日 患者: 動物種: 体重: kg 処置名: 区分:□全身麻酔 □鎮静(□軽度 □中等度 □重度) 麻酔担当者(専任): 承認した獣医師: 麻酔前の確認:□問診・既往 □現在の投薬 □身体検査 □絶食の確認 □機器の点検 麻酔プロトコル 前投薬: 導入: 維持: 鎮痛: 使えない推奨モニターとその理由: 経時記録(心拍数・血圧・SpO2・EtCO2はおおむね5分ごと、ほかの値は少なくとも15分ごと) 時刻|心拍数|血圧(収縮期/平均)|SpO2|EtCO2|呼吸数|体温|麻酔深度のメモ :| | / | | | | | :| | / | | | | | :| | / | | | | | 投与した薬剤・輸液(時刻・薬剤名・量・経路): 介入の記録(時刻・きっかけになった値・行ったこと・結果): 回復期 麻酔薬の投与終了: : 抜管: : 体温(少なくとも30分ごと): 痛みのスコア(スケール名・点数・時刻): 鎮痛薬の追加の基準: 点以上で 退院の確認:□体温が正常 □意識がはっきりしている □歩ける(制限がある場合を除く) □吐き気がない □痛みがない 記録者:
ほかの院内書式は無料テンプレート集にまとめています。
麻酔記録でよくある質問
麻酔記録はどのくらいの間隔で書けばよいですか?
ACVAAの2025年版ガイドラインは、心拍数・動脈血圧・動脈血酸素飽和度(SpO2)・呼気終末二酸化炭素(EtCO2)をおおむね5分ごと、そのほかの生理学的な値を少なくとも15分ごとに記録するよう推奨しています。血行動態が不安定なときは、より頻回の記録が望ましいとしています。
推奨されているモニターが院内にない場合はどうしますか?
ガイドラインは推奨を「最低限(Minimum)」「代替(Alternative)」「発展(Advanced)」に分けています。最低限の項目を使えない場合は、その理由を診療記録に残し、代替の方法で補うよう求めています。たとえばオシロメトリック法の血圧計が使えないときは、ドップラー法で代替できます。
鎮静だけの処置でもモニタリングと記録は必要ですか?
必要です。2025年版は鎮静を軽度・中等度・重度に分けて推奨を示しています。中等度以上では体温とパルスオキシメトリを加え、重度の鎮静では酸素の補給を行い、心電図・非観血的血圧・カプノグラフィの使用を検討するよう求めています。
術後の痛みはどのスケールで評価すればよいですか?
WSAVAの疼痛ガイドラインは、犬ではGlasgow CMPS-SF(24点中6点以上、歩行を評価できない場合は20点中5点以上で鎮痛を検討)、猫ではFeline Grimace Scale(10点中4点以上)やUNESP-Botucatu短縮版(12点中4点以上)を挙げています。同じスケールで繰り返し評価し、点数を記録に残します。
まとめ
ACVAAの2025年版ガイドラインでは、麻酔に専念する担当者が、心拍数・血圧・SpO2・EtCO2をおおむね5分ごと、そのほかの値を少なくとも15分ごとに記録し、薬剤と介入も残すことが基本です。使えないモニターがあれば理由を記録し、回復期の体温と痛みのスコアまで記録を続けましょう。院内のプロトコルは、ガイドライン本文と自院の設備・患者に合わせて決めてください。
参考文献
- Bailey K, Briley J, et al. The American College of Veterinary Anesthesia and Analgesia Small Animal Anesthesia and Sedation Monitoring Guidelines 2025. Vet Anaesth Analg. 2025;52(4):377–385. doi:10.1016/j.vaa.2025.03.015
- Monteiro BP, Lascelles BDX, Murrell J, Robertson S, Steagall PVM, Wright B. 2022 WSAVA guidelines for the recognition, assessment and treatment of pain. J Small Anim Pract. 2023;64(4). doi:10.1111/jsap.13566