SOAPカルテは、動物病院の診療情報を「飼い主から聞いたこと」「診察で確認した事実」「獣医師の評価」「次の計画」に分ける記録方法です。この記事では、S・O・A・Pの書き分け、迷いやすい例、犬猫の記入例、保存前チェックまでを、診察後すぐ使える形でまとめます。
SOAPカルテとは
SOAPとは、Subjective(主観的情報)・Objective(客観的情報)・Assessment(評価)・Plan(計画)の頭文字をとった記録方法です。もともと人の医療で広まった書き方で、いまは動物病院でも標準的に使われています。
SOAPで書くと、次のようなメリットがあります。
- 診察で聞くこと・診ることが整理され、確認の抜け漏れが減る
- 他のスタッフや紹介先の獣医師にも状況が伝わりやすい
- 次回の診察で、前回からの経過を追いやすい
S・O・A・Pで迷ったときの分け方
迷ったときは、文章の内容よりも情報の出どころと役割で判断します。同じ「食欲がない」でも、飼い主の話ならS、診察室でフードを提示して食べなかった事実ならOです。
S:飼い主が話した症状、家庭での様子、投薬状況、心配していること
O:身体検査、測定値、画像・検査結果、診察室で確認した事実
A:問題リスト、考えられる病態、確定・疑い・除外の程度
P:治療、処方、追加検査、説明、家庭での観察点、再診条件
AとPが混ざる場合は、「いまどう考えているか」をA、「その評価を受けて次に何をするか」をPへ置きます。すべての欄を長文で埋める必要はありません。
S:主観的情報(飼い主の訴え)の書き方
Sには、飼い主から聞いた内容や、家での様子を書きます。主訴、いつからか、どんな変化があったか、が中心です。検査の数値ではなく「言葉で語られた情報」だと考えると分かりやすいです。
- 「2日前から食欲がない」
- 「昨日から軟便が続いている。嘔吐は1回」
- 「散歩を嫌がるようになった」
O:客観的情報(所見・検査結果)の書き方
Oには、獣医師が実際に確認した事実を書きます。体重・体温・心拍数などのバイタル、視診・触診・聴診の所見、血液検査やレントゲンの結果などです。数値や単位は正確に残します。
- 体重3.4kg、体温38.9℃、心拍120/分
- 腹部触診で軽度の痛み。脱水は軽度
- 便検査で寄生虫は認めず
A:評価(アセスメント)の書き方
Aには、SとOをふまえて考えられる病態や診断を書きます。確定した診断だけでなく、「疑い」「鑑別に挙げるもの」「除外したもの」を書き分けると、あとで見返したときに考えの流れが分かります。
例:急性胃腸炎の疑い。食事性の可能性が高い。脱水は軽度。膵炎は現時点で可能性低いが、改善なければ再評価。
P:計画(プラン)の書き方
Pには、これからの治療・処方・検査・次回予定・飼い主への指導を書きます。処方は用法用量まで残すと、次回の判断がしやすくなります。「次回やること」も一緒に書いておくと、来院時に迷いません。
- 制吐剤・整腸剤を処方(用量を記載)
- 1〜2日は消化に良い食事、少量頻回で
- 改善がなければ血液検査・エコーを検討
- 次回:3日後をめやすに経過確認
SOAPカルテの記入例(犬・急性胃腸炎)
S:2日前から食欲低下、昨日から軟便。嘔吐1回。元気はややあり。
O:体重3.4kg、体温38.9℃、心拍120/分。腹部触診で軽度の不快感。脱水軽度。便検査で寄生虫(−)。
A:急性胃腸炎の疑い。食事性が最も考えやすい。脱水は軽度。
P:制吐剤・整腸剤を処方。消化に良い食事を少量頻回で。改善なければ血液検査・エコーを検討。3日後をめやすに再確認。
よくある書き分けミスと直し方
- Sに診断を書く:「胃腸炎だと思う」ではなく、飼い主の表現と経過を残し、獣医師の評価はAへ移す
- Oに推測を書く:観察した事実と解釈を分け、解釈はAへ移す
- Aが病名だけになる:確定、疑い、鑑別、重症度など、現時点の判断の程度を残す
- Pが処方だけになる:追加検査、飼い主への説明、観察点、再診の時期・条件も必要に応じて残す
保存前に確認する5項目
- 患者と診察日は合っているか
- 飼い主から聞いたことと、診察で確認したことを分けたか
- 薬剤名、数値、単位を原情報と照合したか
- 確定事項と疑いを区別したか
- 次に確認すること、再診時期、飼い主への説明を残したか
忙しい日は、まず問題ごとに短く事実と次の行動を残し、記憶だけに頼らないことが大切です。院内の必須項目や法令、各病院の記録方針を優先してください。
SOAPを書く時間を短くするには
SOAPは便利な一方で、診察の合間や診療後に文章化するのが負担になりがちです。時間を短くする工夫としては、次のようなものがあります。
- よく使う型(テンプレート)を用意しておく
- 院内で略語や書き方のルールをそろえる
- あとでまとめて書かず、その場で要点だけ残す
最近は、診察の会話を録音し、AIがSOAPカルテの下書きを作る方法も出てきました。下書きは完成した診療録ではありません。患者、薬剤、数値、単位、否定表現、疑いと確定を原情報と照合し、獣医師が修正してから保存します。詳しい流れは「動物病院で音声入力からカルテを作る方法」で確認できます。
まとめ
SOAPカルテでは、情報の出どころと役割を基準にS・O・A・Pを分けます。長く書くことより、事実、評価、次の行動が次に読む人へ伝わることが大切です。保存前の5項目を院内の確認手順に加え、必要に応じてテンプレートや音声入力を試してください。あわせて「動物病院の電子カルテの選び方」も参考になります。