「紙カルテはいつまで取っておけばよいのか」「電子カルテに移したら、紙は捨ててよいのか」。動物病院のカルテ(獣医師法上の診療簿)の保存期間は、獣医師法と施行規則に定めがあります。この記事では、条文で確認できる保存期間と記載事項、電子カルテで保存するときの要件、飼い主から写しを求められたときに備える院内ルールを整理し、そのまま使える保存・廃棄の管理表を紹介します。
結論:犬・猫などの診療簿は3年間、牛・水牛・しか・めん羊・山羊の診療簿は8年間保存します(獣医師法第21条第2項、獣医師法施行規則第11条の2)。電子カルテでの保存もできますが、読めること・守られていること・改ざんがわかることを運用で確保します。
法令・農林水産省通知の確認日:2026年11月1日
獣医師法で決まっている保存期間
獣医師法第21条は、診療をしたら診療に関する事項を診療簿に遅滞なく記載すること(第1項)、診療簿を「三年以上で農林水産省令で定める期間」保存すること(第2項)を定めています。その期間を定めているのが獣医師法施行規則第11条の2です。
| 対象の動物 | 診療簿・検案簿の保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 牛、水牛、しか、めん羊、山羊 | 8年間 | 獣医師法施行規則 第11条の2 |
| 上記以外(犬、猫など) | 3年間 | 獣医師法施行規則 第11条の2 |
死亡した動物を検案したときに作る検案簿も、同じ期間の保存が必要です。
保存期間はいつから数える?
獣医師法と施行規則は保存年数を定めていますが、起算日を条文で細かく明示していません。迷いを減らすには、院内で「最終診療日から数える」など起点を決め、患者ごとの保存期限を管理表に書いておくと運用が揃います。判断に迷う場合は、所管の都道府県や所属の獣医師会へ確認してください。
診療簿に書かなければならない6項目
保存の前提として、施行規則第11条は診療簿に少なくとも次の事項を記載するよう定めています。
- 診療の年月日
- 診療した動物の種類、性、年齢(不明のときは推定年齢)、名号、頭羽数および特徴
- 診療した動物の所有者または管理者の氏名または名称および住所
- 病名および主要症状
- りん告(飼い主から聞いた経過や状況)
- 治療方法(処方および処置)
SOAPで書く場合、りん告はS、主要症状はSとO、病名はA、治療方法はPに入ります。動物の情報と飼い主の情報は、患者の登録情報として毎回の記録にひもづくようにしておきます。書き方の基本は「SOAPカルテの書き方」、院内で記載を揃える方法は「カルテ記載・入力ルール」で紹介しています。
電子カルテで保存するときの3つの要件
診療簿は電磁的記録で作成・保存できます。農林水産省の通知「診療簿等の電磁的記録による保存について」(16消安第10669号、平成17年4月1日)は、電子化を義務づけるものではないとしたうえで、次の3点に注意するよう求めています。
- 見読性:必要なときに画面に表示し、紙に出力できる
- 機密性:アクセスできる人を限り、パスワードを適切に管理し、権限のない人が見られないようにする
- 完全性:保存期間中は復元でき、改ざんや消去があったか、何が変わったかを確かめられる。作成した責任者がわかる
同じ通知は、施設の管理者が組織・設備・上の3点の対策・飼い主のプライバシー保護などを定めた管理規程を作り、それに従って運用することも求めています。電子カルテやクラウドサービスを選ぶときは、次の点を確認しておくと安心です。
- 保存期間を過ぎるまで、過去の記録をPDFなどで出力できるか
- 修正履歴(いつ、誰が、何を変えたか)が残るか
- スタッフごとにアカウントと権限を分けられるか
- 解約やサービス変更のとき、データを取り出せるか
- バックアップの頻度と、障害時に閲覧する方法
紙カルテから電子カルテへ移すときの扱い
電子カルテを導入しても、それまでの紙カルテの保存期間がなくなるわけではありません。移行の前に、紙を原本のまま保管するのか、スキャンして電子で保存するのかを決め、どちらを正本にするかを管理表に書いておきます。スキャンして保存する場合も、上の見読性・機密性・完全性の考え方に沿って運用します。移行の進め方は「紙カルテの電子化・ペーパーレス化」で詳しく紹介しています。
同意書・診断書の控え、検査画像はどうする?
同意書や診断書の控え、検査結果や画像は、診療簿と別の場所に置かれがちです。法令上の扱いとは別に、診療簿と同じ患者記録からたどれることを院内のルールにすると、照会や再診のときに探す時間が減ります。会計・税務の書類には税法上の別の保存期間があるため、診療簿とは分けて管理します。
書類の作り方は「同意書の作り方」「診断書の書き方」で紹介しています。
飼い主から写しを求められたときに備える
転院やセカンドオピニオン、保険の手続きなどで、飼い主からカルテの写しを求められることがあります。その場で判断しないで済むよう、次の4点を院内で決めておきます。
- 渡す範囲:診療簿の写し、検査結果、画像など
- 本人確認:登録されている飼い主本人か、家族の場合の扱い
- 手数料と日数:事前に案内できるようにする
- 記録:いつ、誰に、何を渡したかを管理表に残す
転院先の獣医師へ情報を渡す場合は、写しの代わりに紹介状を書く方が伝わりやすいこともあります(「獣医の紹介状の書き方」)。法的な扱いに迷うケースは、顧問の弁護士や所属の獣医師会に相談してください。
そのまま使える保存・廃棄の管理表
紙カルテ、電子カルテ、検査データ、書類の控えを、保管場所ごとに1行ずつ管理します。廃棄の前に、保存期間を過ぎていること、照会や保険請求の対応中でないこと、院長の確認を取ったことをチェックします。
診療簿の保存・廃棄 管理表(空欄)
診療簿の保存・廃棄 管理表 院内ルール 保存期間(院内):犬猫など 年/牛・水牛・しか・めん羊・山羊 年 起点(院内で決めた日):□最終診療日 □その他: 保存期間の確認者: 最終確認日: 保管場所ごとの台帳 区分:□紙カルテ □電子カルテ □検査・画像データ □同意書・診断書の控え 保管場所・システム名: 対象期間(最終診療日): 年 月 〜 年 月 バックアップの場所と頻度: 閲覧・出力できる担当者: 廃棄の判断 廃棄予定日: 廃棄前の確認:□保存期間を過ぎている □係争・照会・保険請求の対応中ではない □院長の確認済み 廃棄方法:□溶解・裁断 □データ消去(方法: ) 実施日・実施者: 記録の写しの提供・照会の履歴:
ほかの院内書式は無料テンプレート集にまとめています。
カルテの保存期間でよくある質問
犬や猫のカルテ(診療簿)は何年保存しますか?
獣医師法第21条第2項と獣医師法施行規則第11条の2により、犬や猫など牛・水牛・しか・めん羊・山羊以外の動物の診療簿は3年間保存します。牛・水牛・しか・めん羊・山羊の診療簿は8年間です。
電子カルテだけで保存してもよいですか?
診療簿は電磁的記録で作成・保存できます。農林水産省の通知(16消安第10669号)は、必要なときに画面や紙で読めること(見読性)、権限のない人が見られないこと(機密性)、改ざんや消去を確かめられ保存期間中に復元できること(完全性)に注意し、管理規程を定めて運用するよう求めています。
保存期間を過ぎたカルテは、すぐ廃棄しなければいけませんか?
法律が定めているのは保存すべき最低限の期間です。再診時の参照、保険請求や照会への対応を考えて、院内でそれより長く保存する病院もあります。廃棄する場合は、溶解・裁断やデータ消去など、飼い主の個人情報が漏れない方法で行い、記録を残します。
カルテの保存期間は、いつから数えますか?
獣医師法と獣医師法施行規則は保存年数を定めていますが、起算日を条文で細かく明示していません。院内規程で最終診療日などの起点を決め、患者ごとの保存期限を管理表に残します。判断に迷う場合は、所管の都道府県や所属の獣医師会へ確認してください。
飼い主からカルテのコピーを求められたら、どうしますか?
事前に院内の方針(写しを渡す範囲、本人確認、手数料、受け渡しまでの日数)を決めておくと、その場で慌てずに済みます。個人情報保護法との関係など判断に迷うケースは、顧問の弁護士や所属の獣医師会に相談してください。
まとめ
動物病院の診療簿は、犬・猫などは3年間、牛・水牛・しか・めん羊・山羊は8年間の保存が獣医師法と施行規則で定められています。電子カルテで保存する場合は、読めること・守られていること・改ざんがわかることを運用で確保し、起点や廃棄の判断は管理表で院内に揃えておきましょう。